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映画『喜劇 愛妻物語』

喜劇
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本予告
特報A
特報B
著名人からのコメント
この夫婦、史上最高。最凶。最笑
結婚10年目。倦怠期。セックスレス。
笑えて、呆れて、呆れて、泣ける。愛憎渦巻く夫婦道。
濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、坂田 聡、宇野祥平、黒田大輔 冨手麻妙、河合優実、夏帆、ふせえり、光石 研、脚本・監督:足立 紳、原作:足立 紳「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎文庫)、製作:『喜劇 愛妻物語』製作委員会 制作プロダクション:AOI Pro. 配給:キュー・テック/バンダイナムコアーツ(C)2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

イントロダクション

【映画脚本】『百円の恋』 『嘘八百』【小説】《原作》「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎)「それでも俺は、妻としたい」(新潮社)足立紳監督、超赤裸々な(ほぼ)実録夫婦小説を自ら映画化‼

  • 「泣き」と「笑い」、「怒り」と「絶望」が入り交じる
  • 愛憎渦巻く夫婦の姿をコミカルに描く痛快コメディ。

 結婚して10年。いまだにうだつの上がらない脚本家の豪太と、トキメキを失って久しい妻のチカが、幼い娘と三人で旅に出た。四国を舞台にしたシナリオを書くための五日間の取材旅行。しかし豪太にはもうひとつの重大ミッションがあった。旅の間になんとしても、「セックスレスの妻とセックスする」という悲願を達成するのだ!

 『百円の恋』で日本アカデミー賞に輝いた名脚本家・足立紳が、自伝的小説「喜劇 愛妻物語」を自ら脚色した監督第二作。とことんどうしようもない倦怠期夫婦の珍道中を通じて、滑稽だが愛すべき“夫婦の真実”を一切カッコつけることなく描き切った珠玉のロードコメディだ。
稼ぎがほぼゼロで家に居場所もないのに、隙あればセックスに持ち込もうと奮闘するダメ夫・豪太役には、独特の憎めない個性で愛される人気俳優、濱田岳。そして夫に罵声を浴びせながら、家計や子育てを支える不機嫌妻のチカには水川あさみが扮し、速射砲のように罵詈雑言が飛び出す毒舌キャラを熱演。また、豪太とチカの娘アキには、音楽ユニット「Foorin」のメンバーでもある注目の子役、新津ちせ。さらにチカの親友・由美役の夏帆や、光石研、ふせえり、大久保佳代子ら個性派陣が脇を固める。

 世知辛い人生の苦みや、夫婦関係を続けていく難しさを噛みしめつつも、足立監督の視線はどこかのほほんとしていてユーモラス。ほぼほぼ険悪、ほんの時折、緊張の糸が緩む豪太とチカの夫婦の姿は、みっともなくてカッコ悪くて、それでいてどこか愛らしい。「笑って泣ける」は使い古された常套句だが、「笑い」と「泣き」がひとつに混じり合うクライマックスに、“男女の愛の神髄”を見出すことができなくもないだろう。

 あまりにも赤裸々で、スケールの小さい痴話ゲンカ。見終えた後に押し寄せるのは、胸にしみる感動か、呆れ混じりの乾いた笑いか、それとも他人ごととは思えないディープな共感か? 日本の“家族映画”の伝統に新たな1ページを加える、とことんまで情けない痛快作が誕生した。

【超ダメ夫】豪太|年収50万。売れない脚本家。
【超恐妻】チカ|毒舌。酒好き。家計を支える鬼嫁。

ストーリー

  • 結婚10年目。倦怠期。セックスレス。
  • 笑えて、呆れて、呆れて、泣ける。愛憎渦巻く夫婦道。

 売れない脚本家の豪太(濱田岳)は、大学で知り合ったチカ(水川あさみ)と結婚して10年目。5歳の娘のアキ(新津ちせ)がいるが、脚本家としての年収は50万円程度で、もっぱら生活費はチカのパートに頼っている。若い頃は豪太の才能を信じて支えてくれいたチカも、今では豪太の情けなさに呆れ果て、口を開けば罵倒の言葉が飛び出す毎日だ。

 豪太のさしあたっての問題は、チカと三ヶ月セックスしていないこと。夫婦仲はほぼ冷め切っているが、人並みの性欲を失っていない豪太は、日夜タイミングを見計らい、チカのご機嫌を取り、猫なで声を出し、あらゆる手段を使ってセックスに持ち込もうとするのだが、けんもほろろに拒絶され続けている。

 ある日、豪太は旧知のプロデューサーに預けていたホラー映画の脚本の映画化が決まったことを知らされ、さらに別企画のプロットを書くように薦められる。豪太が以前に「四国にいる高速でうどんを打つ女子高生」の存在を知って、映画の企画書を提出していたのだ。脚本化するには四国に取材に行かねばならないが、プロデューサーに取材費を出すそぶりは毛頭ない。取材先を巡るにも運転免許がない豪太は、チカに運転係として同行してくれるよう説き伏せ、なんとか親子3人で四国旅行に行くことになった。

 苦しい家計を取り仕切るチカが手配した旅程は、東京から香川県の高松まで丸一日かけて鈍行列車に乗る強行軍。しかも初日の宿はビジネスホテルのシングルルームで、チカは豪太とアキがチェックインした後に、裏口から潜入して合流するという。しかし疲れが溜まっていた豪太は部屋の風呂場で寝てしまい、締め出されたチカの逆鱗に触れる。これではセックスは遠ざかるばかりだ。

 翌日、「高速でうどんを打つ女子高生」の家を訪れるが、彼女をモデルにした映画とアニメの企画が同時進行しており、翌月にはクランクインの予定だと知らされる。豪太は完全に出遅れており、もはや旅行の目的も失われた。しかしチカは女子高生の両親に、映画化が頓挫したらどうか豪太に企画を任せて欲しいと食い下がる。非常識だとたしなめる豪太にまたもチカの怒りが炸裂した。

 その夜もセックスを拒否された豪太は、チカとアキが寝ている間にひとりで夜の盛り場をほっつき歩く。風俗に行こうにもカネはない。道端で酔いつぶれていた若い女を見つけてちょっかいを出し始めるが、警察に捕まってしまう。度重なる豪太の失態に愛想を尽かしたチカは、豪太にアキの世話を任せて、小豆島に住む大学の同級生・由美(夏帆)に会いに行ってしまった。しかし豪太に降りかかる災難はまだ終わっていなかった。果たして豪太はチカと仲直りしてセックスできるのか?いや、そんなことより綱渡りの夫婦関係はついに終わりを迎えてしまうのか?

プロフィール

濱田岳【夫】豪太

1988年生まれ、東京都出身。『青いうた~のど自慢 青春編~』(06/金田敬監督)で映画初主演を果たす。『アヒルと鴨のコインロッカー』(07/中村義洋監督)で高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞。近年の主な出演作は『今度は愛妻家』(09/行定勲監督)、『ゴールデンスランバー』(10/中村義洋監督)、『みなさん、さようなら』(12/中村義洋監督)、『はじまりのみち』(13/原恵一監督)、『永遠の0』(13山崎貴監督)、『偉大なる、しゅららぼん』(14/水落豊監督)、『HERO』(15/鈴木雅之監督)、『ヒメアノ~ル』(16/吉田恵輔監督)、『引っ越し大名!』(19/犬童一心監督)、『決算!忠臣蔵』(19/中村義洋監督)、『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』(20/成島出監督)など。

濱田岳【夫】豪太

水川あさみ【妻】チカ

1983年生まれ、大阪府出身。『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(97/堤幸彦監督)で女優デビュー。近年の主な出演作は『今度は愛妻家』(09/行定勲監督)、『明日の記憶』(05/堤幸彦監督)、『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』(11/本田隆一監督)、『バイロケーション』(14/安里麻里監督)、『太陽の坐る場所』(14/矢崎仁司監督)、『福福荘の福ちゃん』(14/藤田容介監督)、『後妻業の女』(16/鶴橋康夫監督)、『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』(20/成島出監督)など。公開待機作に『滑走路』 (20/大庭功睦監督)、『ミッドナイトスワン』(20/内田英治監督)がある。

水川あさみ【妻】チカ

新津ちせ【娘】アキ

2010年生まれ、東京都出身。14年にミュージカル「ミス・サイゴン」のタム役でデビュー。17年、『3月のライオン』(大友啓史監督)に川本モモ役で出演して注目を浴びる。19年、『駅までの道をおしえて』(橋本直樹監督)で映画初主演、『ディリリとパリの時間旅行』(ミッシェル・オスロ監督)では声優としても主演を務める。20年にはNHK連続テレビ小説「エール」に出演。公開待機作に『ミセス・ノイズィ』(19/天野千尋監督)がある。また、米津玄師が手掛けた、〈NHK〉2020応援ソングプロジェクトによる応援ソング「パプリカ」を歌うFoorinのメンバーとしても活躍中。

新津ちせ【娘】アキ

夏帆

1991年生まれ、東京都出身。07年に『天然コケッコー』(山下敦弘監督)映画初主演にして、第32回報知映画賞新人賞、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞など数々の映画賞を受賞。近年の主な出演作は『海街diary』(15/是枝裕和監督)、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(17/入江悠監督)、『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(17/黒沢清監督)、『友罪』(18/瀬々敬久監督)、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(19/箱田優子監督)、『Red』(20/三島有紀子監督)、『架空OL日記』(20年/住田崇監督)など。公開待機作に『MOTHER マザー』(20/大森立嗣監督)がある。

夏帆

ふせえり

1962年生まれ、東京都出身。映画、TV、舞台など様々な作品に出演。近年の主な映画出演作は『インスタント沼』(09/三木聡監督)、『俺俺』(13/三木聡監督)、『麦子さんと』(13/吉田恵輔監督)、『屍人荘の殺人』(19/木村ひさし監督)など。公開待機作に『裏アカ』(20/加藤卓哉監督)、『#ハンド全力』(20/松居大悟監督)など。

ふせえり

光石研

1961年生まれ、福岡県出身。高校在学中に『博多っ子純情』(78/曾根中生監督)の主演に抜擢されデビュー。近年の主な出演作は『あぜ道のダンディ』(11/石井裕也監督)、『共喰い』(13/青山真治監督)、『恋人たち』(15/橋口亮輔監督)、『アウトレイジ 最終章』(17/北野武監督)、『蜜蜂と遠雷』(19/石川慶監督)など。公開待機作に『青くて痛くて脆い』(20/狩山俊輔監督)がある。

光石研

大久保佳代子

1971年生まれ、愛知県出身。お笑いコンビ「オアシズ」のメンバー。主な映画出演作は『嫌われ松子の一生』(06/中島哲也監督)、『LOVE まさお君が行く!』(12/大谷健太郎監督)、『闇金ウシジマくん Part2』(14/山口雅俊監督)、『ねこあつめの家』(17/蔵方政俊監督)、『ラブ×ドック』(18/鈴木おさむ監督)など。

大久保佳代子

足立 紳(原作・監督・脚本)

1972年生まれ、鳥取県出身。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。同作と『お盆の弟』にて第37回ヨコハマ映画祭脚本賞受賞、NHKドラマ『佐知とマユ』にて第38回創作テレビドラマ大賞受賞、第4回「市川森一脚本賞受賞。ほか脚本作品として『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(17)『こどもしょくどう』(19)『嘘八百シリーズ』など多数。『14の夜』(16)で監督デビューを果たす。原作、脚本、監督を手がける『喜劇 愛妻物語』(第32回東京国際映画祭最優秀脚本賞受賞)が2020年に公開予定。著書に「それでも俺は、妻としたい」(新潮社)「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎)「弱虫日記」(講談社)などがある。

原作・脚本・監督:足立 紳
原作・脚本・監督:足立 紳「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎文庫)

監督インタビュー

『喜劇 愛妻物語』の企画の始まりを教えていただけますか?
最初は8年か9年くらい前に、さぬき映画祭のプロットコンペに応募しようと思って書いたものです。
ご自身をベースにした作品を書こうと思われたきっかけは?
きっかけはなんだったんだろう。私小説みたいなものが大好きだったというのはありますけど、自分でそういったものを書く気はまったくなかったんです。『14の夜』に関しては、ああいう体験談を仲間とかに話していたらわりとウケていたので。ずいぶん前からドラマなり映画なりにならないかと思ったりはしてましたけど。でも、夫婦のことを書こうとはまったく考えたこともなかった。応募したのはプロットなので、あくまでも大枠だけで、夫婦の心情なんかはぐりぐりと書き込んではいなかったんですけど、小説にしませんかとお話をいただいた時にどう書いていいかわからなくて、だったら恥も外聞もなく書いちゃえとやってみたら楽しかったんですよね。それを最初に読んでくれた編集者も楽しんでくれたので、これはこれでいいのかなと思えたのは大きかったですね。
飲みの席でも、結婚生活のお話はよくされていたそうですね。
そうですね。それもそのまま書くといいんじゃないかとは言われてました(笑)。
もともとは、香川県を舞台にしたものであれば何でもいいというコンペだったんです。ただ香川県には行ったことがなかったので、なにかネタがないかということで家族で行ったんですね。それでも何も見つけられなかったんですけど、奥さんとしては当然「このクソど貧乏のさなか、せっかくお金かけて行ったんだから絶対に応募しろ」ということになっていて、家族3人で行ったけど何も見つからない、夫婦喧嘩しながらウロウロとネタ探しをしているという内容のものを無理やり書いて応募したというところはあります。
主人公はご自身でもあるわけで、ろくでもない思考を赤裸々に晒してエンタメにしてくださっていると思うんですが、読み物や映画にするためにどこまで脚色されているんでしょうか?
基本的には、ウソをつかないようにと心がけてはいます。特に気持ちの部分では。もちろんちょっと誇張してる部分はあります。全部が全部事実のままでもつまんないなと思って書いてはいますけど、ほぼああいう思考回路の人間なんだと思います(笑)。
『百円の恋』の後、初監督作として『喜劇 愛妻物語』を自主制作しようと考えたこともあったそうですね。
はい。もともと演出志望で、『百円の恋』がちょっとは評判になったので、だったら自主制作で監督作も一本撮って、悔いを残すのをやめようと思ったんです。『百円の恋』の直前までさっぱり映画の仕事をやっていなくて事実上辞めていたので。その時にいろいろあったプロットを、奥さんはどれも読んでいるので、『14の夜』か『乳房に蚊』(『喜劇 愛妻物語』に改題する前のタイトル)のどっちかがいいんじゃないかとは言われたんです。実際、他のプロットは自主映画でやれるスケールでないというのもあって。ちなみに自主映画の資金を奥さんが密かにためこんでいて、それは感動すると同時にプレッシャーを感じました。
奥さんまで、自分が登場人物になってしまう小説を選ばれたというのも面白い夫婦関係ですよね。
その時は、奥さんは自分が出る覚悟でいましたよ(笑)。
ご夫婦で主演という話だったってことですか!?
僕の方は「俺が出てもしょうがないだろ」と思ってたんですけど、奥さんは自主映画だったら私が演じるしかないんじゃないのっていう感じではありましたね。何かを覚悟していたというか。その時には僕の方が引いたっていう(笑)。
映画監督にという夢はご夫婦共通の夢でもあったんでしょうか?
そうですね。どっちにもあったと思いますけど、ただもう一時は僕の方が完全に心が折れて専業主夫としてかなり真剣に生きていました。奥さんもその姿は認めてくれましたが、ある日突然、専業主夫以外の結果を出せと恐ろしいことを言ってきて。奥さんの方が「監督しろ!」って想いが強かったんじゃないかと思います。
ある意味では、自分たち夫婦を演じる役者をキャスティングしないといけなかったわけですよね。
そこはあんまり自分たちを演じてくれということではなく、わりと客観視していた気がします。濱田さんも水川さんももともと好きで、いつかお仕事してみたかったというのももちろんあります。水川さんなんかは、小説の頃から「水川あさみが演じると面白くなるんじゃないか」と思っていました。
濱田さんは、中村義洋監督の『ポテチ』っていう映画で車の中で泣き笑いするシーンがあって、それがなぜかすごく印象に残っていたんです。この映画の最後もあんな感じになればいいなと思って、オファーする時にもう一回見直したんですけど、そんなに強調されているシーンでもなかった。でも、ここまでずっと僕の心の中に残っていたっていうのが濱田さんに関しては一番大きかったですね。あと、憎めないだけじゃなくて、ちょっと嫌な感じも出すと面白そうな俳優さんだと思いましたね。濱田さんは嫌な感じの役は少ない印象だったので。
水川さんは、ドラマとか映画とかを観てっていうのももちろんあるんですけど。バラエティ番組とかトーク番組でわりとあけすけに喋ってる雰囲気が、前からいいなと思っていました。あとだいぶ古いですけど「33分探偵」っていうドラマに出ていた水川さんがすごく面白かったのが、とても印象に残っていました。
脚本を読んだ濱田さんと水川さんからは、どんな反応がありましたか?
まず僕の家で台本の読み合わせをしたんですけど、濱田さんが帰り際に、「これ面白いですね、リアルで」という風なことをぼそっと言ったのが、最初の感想だったと思います。
あと撮影中に一度だけ「監督すみません、ここまで言われても、まだコイツ、ヘラヘラしてるだけなんですかね?」って言われましたね。罵詈雑言を浴びせられるシーンではなく、うどん少女の家にレンタカーで向かうところで、カーナビにまつわるぼそぼそっとしたやり取りだったんですけど。
水川さんは結構、本読みのときからケタケタと笑ってました。どこが面白くて笑ってたのかはよくわかんないですけど、「役所広司ごっこみたいなのが面白いよね」って言ってもらえたのはちょっと嬉しかったです。
水川さんは役作りのために奥様にお会いしたんでしょうか?
事前には会ってないです。家で読み合わせした時もうちの奥さんはいなかったので。事前に奥さんに会わせるっていうの、さも「この女を演じてくれ」っていう感じになると思って嫌でした。ただ僕の家で撮影することは決まっていて、そのシーンも撮影の順番がかなり後半の方だったので、前もって家を見てもらって、こういうところに住んでいる夫婦のお話なんですっていうのをなんとなく感じてもらえればいいかなと思って、家まで読み合わせに来てもらいました。
濱田さんが監督のお姿を参考にされた部分はあったんでしょうか?
いやあ、どうですかねえ。濱田さんご本人は「撮影中も監督がニタニタしていたから、自分もニタニタしていた」なんて仰ってましたけど。でも、自分でちゃんと考えて演じてらしたと思ってますけどね。ただ本当に最初の本読みの段階からすごく良くて、むしろダメ過ぎて「この人ちょっと大丈夫かな?」って思うような表情で読んでいらっしゃった。それは監督として嬉しかったです。
足立監督から見ても豪太っていう男は思っていた以上にダメだった?
まあ、濱田さんを通して見て改めて「やっぱりコイツはダメだ」って思いました(笑)。
この映画ってフィクションとノンフィクションの境界が曖昧ですが、例えば実際に監督も警察にしょっぴかれたりしたんでしょうか?
実際には交番には連れて行かれてはないです。ただ警察に声はかけられましたけど。夜中に物欲しそうな目でウロウロしていて、不審者っぽかったんでしょうね。ああいう感じで泥酔している子も昔はよく歌舞伎町やセンター街にいて、もちろん触ったりはしませんがまあ見てましたよね。
ご自身の夫婦がモデルで、長年温めてきた企画だったわけですが、映画になってみて思いがけない結果が生まれたりはしましたか?
わりとイメージ通りの作品になったと思うんですけど、最後の方で、川辺で濱田さんと水川さんが泣き笑いみたいになるところは、自分が想像していたよりもずっと良いシーンになったと思います。そこはやっぱり俳優さんのおかげだと思うんですよね。あのシーンだけリハーサルをせず、一回だけしかできないだろうなとも思っていましたし、スタッフもどういうふうになっちゃうんだろうと思っていたと思うんですよね。僕自身、明確にこのシーンをこういう風にしたいというのがなかった。いや、なんとなくはあったんですけど。プロットや小説として書いていた時には、もうちょっとコメディに振れたシーンになると思ってたんですが、少しぐっとくる場面になったと思います。
監督はよく「ダメ人間を描く際に甘やかしてはいけない」と発言されていますが、この映画でこだわった部分は?
この映画に限らないんですけど、ダメ人間を謳ってる映画はたくさんありますよね。でもそんなにダメじゃない。というか作り手がダメ人間に酔って甘やかしてその結果よく分からないキャラクターにしかなっていないものが多い。僕は山田太一さんの作品がすごく好きで、山田太一さんって市井の人たちを描いているんですけど、その人物への視線に、あたたかさと同時にすごく厳しさもある。「今のままのお前じゃダメなんだ、ありのままでは良くないんだ」ということがしっかり伝わってくるものが好きなんです。とにかく登場人物に関しては「お前はこのままじゃ絶対にダメだ!」っていうのは描きたいし、シナリオの段階から厳しくしていかないとダメだと思うんですよね。
夫婦喧嘩やふたりのダメさに関しては、演じる人や演出が違えば大きく印象が違う作品になりそうですね。
そうですよね。そもそもこんな話は他の人は監督したがらないだろうし、監督するなら自分でやるしかないと思っていました。それこそいろんな人に台本を読んでもらって「ただの夫婦喧嘩を二時間観ていたいですか?」と言われたこともありました。人によってはただの夫婦喧嘩がつらつらと続くだけに読めてしまったりするだろうから、自分がやらないと面白い映画にならないんじゃないかくらいに思ってましたね。嫌な後味の映画にはならないという確信は持っていたので。
最初に小説として発表された際のタイトルは『乳房と蚊』でしたが、改名されたのは新藤兼人監督の『愛妻物語』にちなんでですよね。
そうですね。
タイトル以外に『愛妻物語』はどこまで意識されていましたか?
正直言って、タイトルしか意識はしてないです(笑)。シナリオライターと奥さんのお話というのは一緒ですけど、描こうとしているものは違う気がしますし。
劇中で何度もかかる曲のメロディーは、『阿修羅のごとく』で有名になったトルコの軍楽隊の行進曲がベースですよね?
はい。ただ『阿修羅のごとく』がどういう作品だったのかはあんまり覚えてんです(笑)。あの曲は『居酒屋ゆうれい』でも使われていたんですが、何か活力が湧いてくるというか、この映画もそういう映画にしたいと思っていました。観終わった後に、力が湧く。元気になるっていうより、血湧き肉躍るというのが近いんですけど、生命力が漲るような気分になれればいいなと思っていたので、そのことを音楽の海田庄吾さんにお話して作ってもらったんです。
スタッフは初監督作『14の夜』とほぼ同じチームということですが、作品のトーンやルックは違っています。方向性はどういう風に伝えられましたか?
こんな感じを狙ってるみたいなことで、いくつかDVDを観てもらったりしましたね。今回観てもらったのは、相米慎二監督の『風花』と、『フレンチアルプスで起きたこと』でした。
『フレンチアルプスで起きたこと』も、夫の底抜けの情けなさがスゴいですよね。
あの映画を観て「あ、海外にもこういう映画があるんだ!」って思いました。ただ、あの映画の情けなさって、ちょっと決定的過ぎますよね(笑)。
『14の夜』は青春映画ということで動きがあるシーンが多いと思うんですが、今回はもっと淡々としていて、そこはかとなく面白さが持続する。微妙なさじ加減はどうやって作り出したんでしょう?
第一稿を書いてからクランクインまでに3年くらいかかっていて、俳優さんのワークショップで何回かこの脚本を使ってみたんです。それでいろいろと改良したりはしました。あと一番大きかったのは、奥さんと一緒に本読みをして、自分たちで動きながらシーンを作っていけたこと。夫婦の話なのが強みというか、つまんなくなりそうとかセリフが流れないとか思ったら、自分たち夫婦でやってみてシナリオをいじったりすることができたのは大きかったですね。なんとなく自分の中では事前のシミュレーションがすごくできていたので、大丈夫かなと思えたというのはあります。
完成した映画をご覧になった奥様からは、どんな感想がありましたか?
『14の夜』の時もそうでしたけど、台本の段階からずっと意見を聞いてますし、編集ラッシュも見せていて、どこを切ればいいだとかここは絵が足りないだとかぐちゃぐちゃうるさいことを言ってくる。でも最初にラッシュを通して観て「面白かったよ」って言っていたので、よかったなとは思いました。
豪太とチカというキャラクターを主人公にした小説をほかにも書かれていますよね。映画もシリーズ化するお気持ちはあるんでしょうか?
チャンスがあればやってみたいですね。これだったらいくらでも書けるんで(笑)。ただ、去年の東京国際映画祭に出品した頃に出した小説「それでも俺は、妻としたい」は、たぶん映像にするのは難しいだろうなと思います。一番の理由は、豪太とチカが主人公ではありますけど、性にかなりテーマを置いたんです。映画にしろドラマにしろ、映像作品の性描写ってあんまり面白くないという思いがずっとあって、ただ、人間が演技でやるものである以上それはしょうがない。でも文字ではその面白さを表現できるだろうと思って一生懸命書いたものなので、映像化するのは厳しいなと思ってはいます。ただ、豪太とチカの物語に関してだけ言うと、夫婦漫才に挑戦したりするので(笑)、それはそれで別の面白さがあるとは思います。
豪太とチカは、いろんな役者さんが演じ継いで行くイメージですか? それとも『ビフォア・サンライズ』シリーズみたいに濱田さんと水川さんにずっと演じ続けていって欲しいですか?
やっぱり、濱田さんと水川さんが演じ続けてくれたら一番うれしいですね。。
豪太とチカの物語が、10年後、20年後まで続いていくことを楽しみにしてます。
ありがとうございます。